【随時更新】2023年に触れて印象的だった作品リスト

 

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以下雑感など

 

いとうせいこう「波の上の甲虫」

1998 幻冬舎文庫
自分が小説に恋をするとしたら、いつだってこういう作品なのだと思い知らされる。スマートで幻想的で、抜き身のナイフみたいな鋭さがある。情景から心理をグラデーション的に表されていく巧みさ。そして、そこに現れる奇妙なねじれ感に、がつんとやられる。後半のジェットスキーの場面、あの疾走感とやるせなさの渦巻く瞬間に、猛烈な憧れに胸が苦しくなった。こういう瞬間があるからこそ、もっと本を読みたくなる。(2023/01/26)

ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」

2023/02/05 明治座

ルネサンス期のローマを舞台に権謀術数が火花を散らす漫画、「チェーザレ」のミュージカル。華々しく陰鬱な美しさのある物語だった。群像劇は歴史の光と闇の写し絵で、いわば政治ドラマである。なので次から次へと要人が出てくるし、演じるベテラン役者陣の顔ぶれもすごい。その風格たるや、歴史上で数々の伝説を刻んだ当の人物もかくやと思わされる。中でもやはり、血みどろの権力闘争に身を投じる少年チェーザレが印象的だった。古来から人が舞台を愛する理由として、圧倒的なカリスマを見せてくれるところがあると思う。フィクションを生身の人間が演じるからこその鬼気迫る神格性を、チェーザレで久しぶりに目の当たりにできた。もう、それだけでも行ってよかった。こればかりは他の何にも代え難い。二幕でステンドグラスを背にした時の演者の佇まいが夢のように瞼の裏に残っている。(2023/02/05)

福永武彦「草の花」

1956 新潮文庫

この孤独は無益だった。しかしこの孤独は純潔だった。

魂の一冊に出会ってしまった。信じられん。こんな小説が存在していたなんて。未熟の傲慢と刹那の美しさ。この感覚、どこかで覚えがあると思ったら六道ヶ辻シリーズだ。だけど、さらにぐっと透徹したタイプの青春の墓標。
これを抱えたまま息絶えたい。(2023/02/08)

東浩紀「弱いつながり 検索ワードを探す旅」

2014 幻冬舎

読みやすく示唆に富んだ内容。言葉選びも的確で説得力がある。
コミニュティに属するたびに、いつも自分がアウトサイダーであるような意識はずっとあった。その閉塞感を打破していく唯一の方法は、いい意味での軽薄さ、『弱いつながり』を味方につけるということである。元々思うところがあったし、改めて手に取った本に明文化されることで腑に落ちた。
環境や言葉がその人を規定する。ネットの『強いつながり』は自己をエコーチェンバーに閉じ込めてしまう危険性をはらむ。しかし、その人の限界を広げられるのもまた、言葉と環境である。「私の言語の限界が私の世界の限界を意味する」というウィトゲンシュタインの言葉もそういうことだろう。

要は、記号を扱いつつも、記号にならないものがこの世界にあることへの畏れを忘れるな、ということです。

貴重な人生のリソースを何に割いていくか。ここで出会った言葉を契機に、しばらく考えてみたい。(2023/2/11)

花村萬月「ブルース」

1998 角川文庫
生きていておよそ情熱というものを持たない私であるが、こういう作品を読んでしまうと、もう。全然時間が足りない、もっともっと『何か』を知らなければ──と、渇望を掻き立てられて苦しくなる。『何か』は人間についてなのか、生きることそれ自体なのか、分からないけど、とにかく焦燥に近いぐらいのもの狂おしい気持ちになる。恐ろしい人だ。花村萬月。なぜ、そこまで…と言いたくなる。孤独こそが文学のふるさとであるという安吾の言葉が本当に好きなんだが、ここに痛々しいくらいにそれが体現されているように思う。北方謙三の解説も含めて良すぎる。読めてよかった。(2023/02/12)

ヴィリエ•ド•リラダン未來のイヴ

1996 創元ライブラリ
異様な小説だ。美術館で、実際の絵画を目の当たりにするとその無言の圧といおうか、あまりの魂のこもり具合に身震いしてしまうようなことがあるが、そんな感じだ。
ここまで筆魂が凄まじいと、作者の人となりに思いを馳せずにいられない。解説から判断するに、生前ほとんど評価されず、不遇のまま生涯を終えたそう。早すぎた天才が俗世の無理解に対して抱いていた感情は作中からも汲み取れるし、それはもうゾッとするくらい冷ややかなものだ。そりゃ、これだけ教養豊かで美意識高くて頭良かったら、世間の俗っぽさに幻滅もするだろう。それでいてまた、生物としての人への尋常ならざる愛情深さも言葉の綾となって現れているからこそ、読む側としては揺さぶられる。作中のエジソンへの言及は自己分析的な面もあるのでは、と邪推してしまうな。研ぎ澄まされた諷刺精神と冷ややかな理知がかっこよくて憧れる。あたかも想像力に翼が生えているかのようなロマンチックさや、凝りすぎなくらいの過剰演出、贅沢なまでの衒学趣味もくらくらするほど魅力的だ。なかなか出会えないお宝に巡り会えた感覚がすごい。文脈は違うけど、学生時代に出会って印象的だったバフチンの言葉──言語の中にはいかなる中性の、<誰のものでもない>言葉も形式も残されない──を想起してはっとする場面もあり。すばらしい訳文も讃えたい。齋藤磯雄さん、覚えた。フランス文学もっと読んでみよう。(2023/02/21)

赤江瀑「鬼恋童」

1985 講談社文庫
赤江瀑の作品には、一貫してあるトーンがある。描き出される光景がどれだけ陰惨で、どれだけ我執と狂気をはらんでいようと、根底には清涼な風が吹いている。「遠臣達の翼」で出会ってからずっと、私が憧れてやまないのが、その端然とした佇まいである。ため息が出るほどかっこいい。そして美しい。
本作では「阿修羅花伝」が猛烈によかった。能面制作に取り憑かれた青年が、どれだけその道を極めても作品の中に「自分」の影が出てしまい、その戒めとして己の顔を切り刻むという凄まじい話。自照性のあるなしは作者のみぞ知る。個人的にはそこも含め、多層的なイメージの広がりを感じられて特に気に入っている。
クラシックな赤江瀑節全開の表題作「鬼恋童」も良かった。ここでもやはり題材選びの妙が効いている。ドグラ•マグラの解説にあった、作家自身が百科事典を熟読することを好んでいたというエピソードが印象に残っているが、赤江瀑もそんな感じだったのではないだろうか。これもう、一人の人間から出てくる情報量じゃないんだよなあ、ほんと。(2023/3/10)

「RRR」

2022 DVVエンターテインメント
どうやら、インド人の辞書にやりすぎという言葉はないらしい、と気づかされた3時間だった。オレの考えた最強に胸熱の展開、をひたすら盛り込み続けりゃいいってもんじゃないのよ。少年漫画でもさすがに担当編集に却下されるんじゃないのかって思うよ。やりすぎですって。でも、実際それで成り立ってしまうのだから、ま〜〜よく作られてる作品。主要人物のキャラ立てから関係性、物語の緩急のつけかた、そして随所の伏線回収まで隙がない。3時間絶え間なく見せ場を積み上げていきつつ、クライマックスに向けて観客のボルテージを最大限まで高めさせる。どこか日本のサブカルチャーを踏襲しているような雰囲気もありつつ、ド派手なインド要素をも上乗せされたハイブリッドだ。アニメ漫画ゲーム大好きな日本人にウケないはずがない。冷静に考えると「こうはならんやろ」って部分もちょいちょいあるのだが、「うっせーばーか面白いからいいんだよ!」というガキンチョ精神(言い方ひどいな)がいい意味で効いてるというか、そういうパッションを持った大人たちが集結し、作品作りに本気で取り組むとどうなるかの理想モデルといえる。主役はいかつい男たちだが、かわいらしいほどの素直さと爽快感が突き抜けたエンタメ。脳筋は世界を救えないかもしれないが、今の世相でこの作品が世に求められているという事実に、少し元気づけられる。(2023/3/12)

皆川博子 「冬の雅歌」

2013 出版芸術社
皆川博子の「世間の外側にいるような人物」の描写のすさまじさに安らぎを覚える。 叩きつけるような容赦のなさだが、純文学ではない。もっとどこかゆったりしていて、優雅さがある。この貴族的な感じが好きだ。 精神病院を舞台にした「冬の雅歌」、狂気の愛と倒錯に搦め捕られていく人物のリアルさに引き込まれる。皆川博子の醸し出すムードは重く、甘く、毒々しく、倫理を揺さぶって精神の奥底を抉り出す。コレクション全編を通して、人の心に魔が忍び寄る瞬間の、めまいのする落下感覚が味わえる。(2023/3/15)

劇場版PSYCHO-PASS」/「PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に

2015/2019 Production I.G
公開からだいぶ日が経った中、初見でこの二作を劇場の環境で観られたのは僥倖だった。なにしろ<シンフォニックな音楽が流れる中で銃撃音がガンガン重なっていく>音の体への響き方が、想像の斜め上をいく良さなもんで、脳内麻薬がハンパなく出まくる。当然シナリオも抜群にいい。後日、脚本家の対談を読んで、この作品世界においては頭がいいやつほど強いというメタ的なルール(出典)の話を知った時、うーんそういうとこたまんない大好き、と思ったものだけど、それでいうとやっぱり劇場版一作目の傭兵のボスは完璧なキャラ造形だった。酒と銃と紙の本を愛し、知性と色気と暴力に満ちた生を送る男。そしてやっぱり狡噛だ。彼ってなんであんなに魅力あるんだろう。私は花村萬月のブルースを愛する人間であるので、インテリでありながら社会のレールから足を踏み外し、身を持ち崩してさえも人々の求心的存在たる狡噛がやっぱり好きだし、とてつもない魅力を感じる。もう、夢だよ、フィジカル化け物で狙撃がうまくて紙の本でプルーストを読んでて、煙草と硝煙の匂いのする男なんて。
その上で、劇場版で圧倒的だったのは公安局刑事課の存在感だった。抜群に光っていた。組織内部の腐敗に立ち向かう常守たちの泥臭さ、本当に良かった。魅せ方がとにかくセンスいい。PSYCHO-PASSという作品の醍醐味って、人によって違うだろうけど、自分はどうしてもやっぱり狡噛と捜査一課メンバーたちとの緊張感にあると思ってる。真っ向からの対立とも微妙に違う、グレーな関係性。相容れないとわかっていながら男も女も己の矜恃を貫き通す、互いにゲリラの服とスーツ姿で。SS Case.3でのフレデリカと狡噛の淡々とした応酬の緊迫感もよかった。ここから余談だけど、フレデリカで思い出したこと。射撃のシーンでYGCのソニアを感じてしまって…アクションがいちいちかっこいいのズルい。列車の上で戦っているときの異常な量の薬莢がバラバラ落ちるところにも凄いフェチを感じたし痺れた。堪能した!PSYCHO-PASSの面白さが凝縮された二つの名作。(2023/3/18)

「AI:ソムニウム ファイル」

2019 スパイク•チュンソフト
舞台は近未来の東京。 雨の降る夜、廃墟となった遊園地のメリーゴーランドで死体が発見される。プレーヤーは警察の特殊捜査官である主人公として事件を追っていく。この〝特殊捜査〟がこの作品独特で、現実世界で事件を追う『探索パート』と、被疑者の脳内に入って心の深層を探る『ソムニウムパート(ソムニウムとはラテン語で夢、幻想を意味する)』に分かれている。つまり、主人公たちは現実と夢の世界を行き来しながら真犯人を探すことになる。
最高じゃないか。もうストーリー設定あたりだけでワクワクする。しかもこの制作会社、もうやるしかない、とプレイし、これまた期待以上に面白かった。ミステリー部分がとてもよく練られている。先読みしがちなこちら側の思考をさらに先読みし、よりエンターテイメントしてくる塩梅のうまさが凄い。スパイクチュンソフトの一筋縄ではいかないところはダンロンでさんざん知ってるはずなのに、まだナメてたのかもしれない。相棒のAIとの夫婦漫才でのほほんとしてたら突然牙を剥いてくる展開の数々に衝撃を受けた。一見ルートが分岐しているようで、全て真エンドに向けた伏線となっており、終盤にかけて次々回収されるのに伴う目まぐるしい展開が息つく暇も与えない。めちゃめちゃスマートなところとバカなところとの落差がすごかったり、登場人物が曲者揃いだったり、アクの強い作品だが(だからこそ)、とても楽しめた。舞台設定は近未来だけど、どこか懐かしさを感じる要素があるのも好き。応太ルートとか、イリスのダンスだったりとか。特に後者は、踊ってみたの全盛期を通ってた人間からするとノスタルジーを大いに刺激された。作品内にあの空気感やカルチャーがずっと残るということそれ自体が、何ともエモに満ちている。(2023/3/23)

丸谷才一「たった一人の反乱」

1997 講談社文芸文庫
とめどない論理の展開と蘊蓄がずっと面白くてすごい。 丸きり俗物な主人公と、周りが揃いも揃って上っ調子な可笑しさが小粋な筋運びで描かれ、あまり毒っぽさを感じずに楽しく読んだ。作者の饒舌体の中にある、醒めた核のようなものが好感を抱かせるのかもしれない。市民社会と芸術の対立構造の話がむちゃくちゃ面白くてサイコーだった。余談だが、映画「カメラを止めるな!(2017)」や「ラヂオの時間(1993)」を面白く感じた時の感覚とも繋がった気がする。こういう文芸はとても貴重。物語を読み終えた後、手の中の本のずっしりした感覚が、とても贅沢な重みに感じた。(2023/3/25)

姫野カオルコ「整形美女」

2002 新潮文庫
これは…!視点によって異なる認識を追体験できるのがゾワッとした。いい。凄く面白い。誰しも持ち合わせている心理を俎上にのせ、明瞭な言葉で刻んでいく小気味良さ。 『他人は他人の内部など想像しない。』人間の〝想像力の欠如〟に牙を剥く表現には、ああこれ今まさに小説の醍醐味を味わっているなと感じた。どこか寓話的なエッセンスがあるような、このブラックさがとても好みだ。開眼させられた。(2023/3/26)

山本周五郎「さぶ」

1965 新潮文庫
文章がいい。主人公・栄二のかっこよさと日本語のかっこよさに惹きつけられた。 江戸っ子の粋さと哀しい明るさが息づく浪花節調がDNAに訴えるのか、途中何度か泣きそうになった。最後まで飽きさせない構成が圧巻。巧みな筋運びをサラッとやってるのがまたかっこよかった。(2023/3/30)

大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」

2021 カプコン
世の中にはすごい人がいる。初めましてから数分の間でもう好きになっちゃうような、愛嬌がある人。このゲームにもそんなおもむきがある。
プレーヤーは主人公=弁護士として依頼人を最後まで信じ、悪意だらけの法廷に立つ。徹頭徹尾、正統派の法廷バトルADVである。
コミカルな台詞回しが演劇っぽく、クセのある登場人物たちに妙に愛着が湧いてしまう。彼らの人間関係にまつわるお楽しみも、後半に遅効性爆弾のように隠されており、シナリオ展開もだいぶアツい。名は体を表すで、勧善懲悪の物語にふさわしく清々しい締めくくり。まるで舞台のカーテンコールのような余韻が胸に残る。(2023/4/8)

「LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-」

2023/4/21 池袋サンシャイン劇場
サナトリウムを舞台に繰り広げられる、吸血種の少女たちの残酷歌劇である。
DVDでのみ見ていた2014年初演作品の再演版。なんと、生でこれが浴びられるとは。追加曲、追加台詞ありとはいえ、作品の土台に大きな変更はなくて、そこが私には当時既にパッケージとして完成していた証左に思える。だからこそ、映像で観て印象的だった隊列ダンスも歌割りも、リアルタイムに生で浴びられる喜びは大きかった。本物だ!って。ただそれに輪をかけて度肝を抜かれたのは、役柄と役者のシナジー効果の凄さ、それから歌声の気迫だった。もはや全員が全員スターになれる子達だ。どうなってんの、ちょっと。戦闘力高すぎる。観ている途中に薄々と(これは後々語られるだろうとんでもないものを目の当たりにしている)という確信が頭から離れなかった。贅沢で儚い幻を見せてくれるこの『コンテンツ力』がもう、とてつもなく強い。円盤でも繰り返し見るだろうけど、客席からの光景、歌声の記憶も大事にしたい。君の胸に刻むは、少女純潔…。(2023/4/21)

牧野修「月世界小説」

2015 ハヤカワ文庫JA
日本語を扱う日本人としてこの小説を読むこと、それ自体が作品の多重世界の一部、というメタ構造を孕む言語SF。物語は美しくもグロテスクな黙示録から幕を開け、妄想世界から妄想世界へ、さらに混沌へと流転する。極めつけは神とのバトル。牧野修の独擅場とも言うべきバリ高な言語感覚が炸裂してる。狂気より覚醒した狂気に彩られる言語遊戯に、読むと毒が脳に回る。刺さった棘のように余韻が抜けない本がいくつかあるが、これもその一つ。

ああ夢と夢の眷属よ。誰にもなれずどこにも生まれなかった者たちが永久(とこしえ)に失せぬ偽物の楽園で眠り続けることを許し給え。

かっこよすぎるだろ。牧野修を読むたびに、奇跡みたいな才能だと思う。(2023/4/23)

「男たちの晩夏」

1986-1989
警官志望の青年と、裏社会の男たちの友情、そして確執を描いた1作目から始まる映画シリーズ3作。めちゃめちゃ琴線に触れて一気見した。爆発的に面白かった。こういうギラついてる作品が大好物だ!香港ノワールの火付け役としての記念碑的存在というのも納得。野蛮さも痺れるような格好良さも、詩的な美しさも茶目っ気も、そしてエモささえも、全てが内包された作品だった。極めつけは俳優の魅力の凄まじさ。チョウ・ユンファ演じる人物が愛すべき存在であればあるほどに、最後の最後で暴力にしか生を見出せないところが愛惜を誘う。ラストも潔く美しい。(2023/4/28)


孤狼の血

2018 東映東京撮影所
刑事ドラマが主体のアウトローもので、以前から気になっていた映画。
バイオレンスの過剰さが売りの作品もあるが、これは違った。残酷シーンと軽妙なノリの緩急の付け方が自然で見やすい。その上で、終盤の映像と音の高まりは美しいしかっこよくて惚れた。凄かった、叩き落とした後あそこに持っていくの。スカッとしたし泣きそうにもなったし、観る前に思った以上に味わい深い作品。
にしても本作といいVBBといい、イっちゃってる暴力男役の中村倫也はなぜこんなにいいのか。色気のある演技に目が釘付けになる。(2023/4/30)

吉村 昭「星への旅」

1974 新潮文庫
死を主題とした6編。どれも透明な詩情とハッとするほどの鋭さが凝縮された傑作。初読時の「鉄橋」で慄然とした感触は忘れられない。その幕引きの余韻も冷めやらぬ中での「少女架刑」、すごすぎるぞこれは、とすっかり吉村昭に心奪われた。表題作は乾いた文体で描写されるからこその説得力。読後に突き放される虚脱感が心地よい。(2023/6/13)

アゴタ・クリストフ悪童日記」 

2001 ハヤカワepi文庫
単純な『面白さ』だけでブン殴られるパワー。凄い。洒落てる。主観を排して非倫理を描くことで透徹した倫理性を浮き彫りにしていく手法、スマートでとても好みだ。ラストの引きの強さには数秒思考が停まった。邦題の「悪童日記」、これ以上ないと思える完璧さ。解説より、邦訳初版を上梓した訳者の興奮が伝わる。激烈な三部作の幕開け。(2023/6/20)


鈴木 創士「ザ・中島らも: らもとの三十五光年」

2014 河出文庫
中島らもの親友による回想録。らもとの狂騒的交友の数々が鮮やかに描かれる。こんな優雅なナイフみたいな文章あるんだ。刃は感傷よりはるかに深く、魂に食い込んだ根源的な傷を曝け出す。むろん読む側も無傷では済まされない。まさに劇物的な書。(2023/8/12)

山田 風太郎「妖説太閤記

2003 講談社文庫
ずばぬけた知力と冷徹さの裏に、欲望と狂気を秘めた醜怪な人物像で描き上げられた太閤記。秀次一族粛清の場面はやはり強烈の一言に尽きる。天下人となった秀吉の醜悪さ外道さが凄まじく、しかしまた天晴れな読後感だった。風太郎の歴史を見通す愛ある眼差しが胸を打つ。(2023/8/19)

飴村 行「粘膜人間」

2008 角川ホラー文庫
読む前から絶対面白いと分かってた話。最高だった。エグみのある悪夢をエンタメとして昇華した傑作。1頁目から異様な気配が漂っており、好きな人はもうそこでピンとくるはず。章ごとに主役が入れ替わる三部構成が実によく練られている。一章の猟奇殺人ホラー、ニ章の少女拷問幻想、三章の甦る死人と妖怪の対決(の前の諧謔まじりのストーリー)、どれもが比肩しうる出来。すっごいセンスだ。(2023/10/13)

シャーリィ・ジャクスン「ずっとお城で暮らしてる」

2007/創元推理文庫
メルヘンの皮を被った、窒息しそうなほどの悪意に満ちた小説。かなり殺意高め。わけわかんなくて不気味で、でもゾッとする面白さだった。描写の曖昧さが賛否別れそうだけど傑作だと思う。ずっとボタンを掛け違えたような違和感が続く、主観への信用のできなさがたまらない味わい。(2023/10/27)

寺山 修司「花嫁化鳥」

 (2008/中公文庫)
2023/10/29

シャーリイ・ジャクスン「くじ」

2016 ハヤカワ・ミステリ文庫
おふくろの味、決闘裁判、チャールズ、曖昧の七つの型、塩の柱、大きな靴の男たち、歯、くじ 好みだった。悪意とひねりと洒落のきいた短編集。クセになる読後感。(2023/11/05)

山白 朝子「エムブリヲ奇譚」

2016/角川文庫

は〜〜〜おもれ〜〜〜。大好物だらけだった。1・2話のパンチの強さとそれを経てからの物語が続いていくのが本当にうまい。人面魚の村とかもう、涎垂れそうなくらい好きなタイプの話。最高にエンタメしてる。酒飲みながら読んだら最高ってタイプの小説。(2023/11/09)

フランソワーズ・サガン「悲しみよ こんにちは」

(2008/新潮文庫)
2023/11/15

 河野裕「いなくなれ、群青」

2015 新潮文庫nex

手の届かないものへの憧れ、頑なさ、若者のしんどさが詰まっている。この作者、心象風景の言語化がレベチで巧妙なのに、奥ゆかしいというか、さりげなさすぎて過小評価されてる気がする。そんなところも好き。サクラダリセットの大きな魅力である、うっすら憂いのある繊細な文章がここでも光っていた。(2023/12/18)